多くの家庭で「たとう紙に入れているから安心」という盲信が見られます。しかし、呉服加工や染み抜きを専門とする悉皆業者の現場取材では、「着物たとう紙の交換時期と理由」を正しく理解していないことによる深刻なトラブルが後を絶ちません。新品の和紙は周囲の湿度変化に応じて湿気を吸放出する優れた呼吸性能を持ちますが、その能力にも物理的な限界が存在します。
高温多湿な日本の気候下において、密閉されたタンスの中で湿気を吸い続けた紙は、数年を経過すると繊維の飽和状態を迎えます。さらに、紙に含まれるリグニンや糊成分が空気中の酸素や水分と反応して酸化を起こし、徐々に茶色い斑点状の変色(糊焼け・油ジミ)を発生させます。このたとう紙放置による黄変やカビの経緯こそが、純白の襦袢や訪問着の胴裏を台無しにする元凶です。吸い込んだ水分を自力で逃がせなくなった古い紙は、もはや保護材ではなく「湿気の湿布」を着物に巻き付けている状態と変わりません。
現場の悉皆職人は「紙自体にポツポツと薄茶色のシミが現れたり、手触りがカサカサ・ゴワゴワと硬くなったりしたら完全に寿命のサイン」と口を揃えます。着物本来の美しさと生地のコシを保つための着物たとう紙の買い替え頻度と寿命は、環境の良い桐タンスでも2〜3年、湿気がこもりやすい現代住宅のクローゼットやプラスチックケースなら1〜2年が安全圏です。遅くとも5年を超えて同じ包み紙を使い続けることは、修復に数十万円を要する絹の変質事故を招く直接的なリスクとなります。