二人の関係を語る上で避けて通れないのが、壬氏のあまりに複雑で重層的な正体と、それを取り巻く身分制度の過酷さです。
表向き、壬氏は「後宮を管理する絶世の美貌を持つ宦官」として登場しました。しかしその実態は、現皇帝の弟である「皇弟・華瑞月(カズイゲツ)」です。さらに物語の深層において、壬氏は先帝の息子(皇弟)ではなく、「現皇帝と阿多妃(アードゥオ)の間に生まれた実の第一皇子(皇長子)」という驚愕の出生の秘密が明かされます。赤子のすり替えによって皇弟として育てられた壬氏は、皇位継承権の最前線に立たされているのです。
一方の猫猫は、花街の薬師として育ちながらも、その血筋は軍師・羅漢を筆頭とする名門「羅の一族」の直系です。しかし、以下の構造的障壁が二人の婚姻を極めて困難にしています。
- 皇位継承問題:壬氏が皇帝の座に就けば、後宮制度の頂点として多数の妃を娶る義務が生じ、猫猫のような気質の女性を正妻として縛り付けることは猫猫を殺すに等しい。
- 猫猫の強烈な忌避感:猫猫自身、後宮のドロドロとした権力闘争や「お世継ぎ産みマシーン」としての女性の立場を骨の髄まで理解しており、皇后や上級妃になることを断固拒否している。
- 壬氏の決死の選択:壬氏は猫猫を娶る条件として「自らの皇位継承権を完全に放棄し、臣下に下る(臣籍降下)」ことを目指し、自らの体に焼き印を押すなど命がけの抵抗を続けている。