溶接のオーバーラップが発生する決定的な理由は、「溶融池(プール)の熱量と母材の溶融状態がアンバランスなまま、余剰な溶融金属が先行して流れ出すこと」に集約されます。アーク熱によって母材の開先表面が十分に融点(鋼材で約1500℃)へ達していない領域に、過大に溶けたワイヤや溶加棒の液体金属が覆いかぶさるため、母材と原子レベルで混ざり合わずに界面が残存してしまいます。
この現象を引き起こす主な作業因子として、以下の3点が挙げられます。
- 溶接電流と運棒速度の極端な不整合:溶接電流が低すぎるにもかかわらず運棒速度が極端に遅い場合、アークによる母材の溶込み深さは浅いまま、添加された溶加材ばかりが局所的に堆積します。その結果、耐えきれなくなったプールが冷却固化前のスラグとともに前進・側方へ溢れ出し、溶融金属の垂れ下がりを引き起こします。
- トーチ角度と指向性の乱れ:すみ肉溶接や横向き溶接の際、トーチの狙い角が下板または上板に偏りすぎると、熱が届かない側の母材表面に溶融金属だけが流れ出します。特に下向きすみ肉溶接でトーチの後退角(前進法・後退法)を寝かせすぎた場合、アーク力が溶融池を押し広げるように作用し、未溶融の母材へ乗り上げてしまいます。
- 母材の熱容量と予熱不足:板厚が25mmを超えるような極厚板や放熱性の高いアルミ合金・銅合金を扱う現場では、アークを照射しても急速に熱を奪われます。適切な予熱を行わずに溶接を開始すると、ビード直下しか母材が融解せず、側方に広がった外縁部が急冷されてオーバーラップ化します。
半自動溶接(MAG/MIG)においては、ワイヤ供給速度に対して電圧設定が低すぎる場合にも短絡移行が不安定となり、スパッタの多発とともにビード止端部が盛り上がって不融合なビードが形成される典型的なパターンが見受けられます。