なぜ志村けんは、誰の「夫」にもならなかったのか。この問いに対し、彼自身が生前残した数々の発言が答えを物語っている。志村は晩年まで「結婚願望がないわけではない」と周囲に語っていた。実際、20代や30代の若手時代から「自分の家庭を持ちたい」「子供が欲しい」と漏らす場面は一度や二度ではなかったという。
しかし、彼は最後まで戸籍上の妻を持たなかった。最大の理由は、あまりにも過酷なまでに「笑い」へ捧げた生活様式にある。収録が終われば夜の街へ繰り出し、コントのアイデアを練り、人々の息遣いを肌で感じ取る。家庭という静謐な場所に収まることで、演者としての切れ味が鈍ることを、彼は何よりも恐れていたのだ。