単なる植物の種子の写真であるにもかかわらず、なぜ人間はこれほどまでに激しい生理的拒絶を示すのでしょうか。その科学的解明は、近年の視覚認知心理学や進化生物学の研究によって大きく前進しました。
この現象の鍵を握るのが、無数の小さな穴や斑点の集合体に対して強い不快感や恐怖を覚える集合体恐怖症(トライポフォビア / Trypophobia)です。英エセックス大学の視覚科学者ジェフ・コール(Geoff Cole)博士およびアーノルド・ウィルキンス(Arnold Wilkins)名誉教授が発表した先駆的な研究論文(2013年)によると、成人男女の約16%(およそ6人に1人)が多孔質パターンに対して不快感を示すことが確認されています。
研究グループが明らかにした集合体恐怖症の心理的背景によると、人間の脳は蓮の実のような「高コントラストで不規則に反復する幾何学的パターン」を見た際、大脳皮質で異常に高い視覚エネルギーを消費します。さらに重要なのは、ヒョウモンダコ、キングコブラ、毒ヤドクガエルといった猛毒生物の皮膚模様や、天然痘、はしか、皮膚寄生虫感染症などによって生じる重篤な皮膚病変の視覚的特徴と、蓮の実の穴の空間周波数特性が極めて類似している点です。
つまり、蓮コラが気持ち悪い理由の本質は、危険な病原体や猛毒生物から直ちに身を遠ざけようとする、人類が数百万年の進化の過程で獲得した「病原体回避メカニズム(Pathogen Avoidance Mechanism)」の暴走にあります。理性では「ただの合成画像だ」と理解していても、脳幹や扁桃体が生存本能として即座に交感神経を刺激し、鳥肌(立毛筋の収縮)や嘔吐反射を引き起こしてしまうのです。