明治初期の根津遊郭と東大生の関係を最も生き生きと現代に伝える第一級の資料が、坪内逍遥の代表作『当世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)』です。1885年(明治18年)に発表された本作では、勉学に励む一方で根津の花街に通い詰め、芸妓に心を奪われて身を持ち崩しかける書生たちの心理が生々しく描写されています。
当時の記録や手記によれば、東大生たちは制服や下駄履きのまま坂を駆け下り、根津の妓楼で談笑していたとされます。官設のエリート養成機関のすぐ隣に、酒と女と歌が満ちる歓楽街が存在していたというコントラストは、近代化に突き進む過渡期の東京ならではの独特な熱気を生み出していました。しかし、そうした奔放な書生文化そのものが、政府にとっては「国家建設の足かせ」と映ったことは間違いありません。