肩に走る痛みを「効いている証拠」と勘違いして放置することは極めて危険です。腕立て伏せに起因する肩関節障害の多くは、病理学的にインピンジメント症候群、あるいはその進行形である腱板損傷に分類されます。
肩関節の屋根にあたる「肩峰」と、腕の骨である「上腕骨頭」の間には、腱板(特に棘上筋腱)や肩峰下滑液包が存在するわずかな隙間(肩峰下腔)があります。肘を大きく開いた状態で腕立て伏せを行うと、この隙間が物理的に狭小化し、骨同士の間に腱や滑液包が何度も強く挟み込まれます。この摩擦と圧迫の反復によって滑液包が炎症を起こし、鋭い痛みを発するのがインピンジメントの基本病態です。
この摩擦刺激が慢性化すると、腱板の繊維が毛羽立ち、最悪の場合は腱の部分断裂や完全断裂(腱板損傷)へと進行します。腱板は血管網が乏しいため一度器質的な損傷を受けると自然治癒が極めて難しく、腕を真横から上げるだけで激痛が走るなど、日常生活にも重大な支障をきたします。単なる三角筋前部の筋肉痛であれば48〜72時間で鈍痛が和らぎますが、関節の奥深くがきしむ感覚や、特定の角度でピキッと走る引っかかり感がある場合は、関節内部の構造破綻を疑う必要があります。