音楽的な構造に目を向けると、川本真琴ならではの特異なソングライティングの才能が際立ちます。アコースティックギター1本で弾き語りを試みるミュージシャンの間でも、川本真琴『桜』のギターコードは難度の高い楽曲として知られています。
彼女のコードボイシングは、一般的なポップスで多用される単純なオープンコード進行とは一線を画します。テンションコードや分数コードを絶妙に配置し、フォークロック的な響きの中にジャズやネオアコのエッセンスを感じさせる高度な構成が採用されています。アコースティックギターの弦を強くかき鳴らすパーカッシブな右手のストロークと、流麗かつ跳躍の激しいメロディラインの同居は、まさに彼女のトレードマークです。
ピアノ出身者特有の自由な音階感覚がギターのフレット上で再構築されており、この複雑なコードプログレッションが、歌詞が持つ心の揺らぎや不安定さを音響的にも完璧に補強しています。