企業がCMタレントを選定する行動様式は、認知心理学および行動経済学の観点から論理的に説明がつきます。
人間の脳には、見慣れた刺激に対して好ましさを感じる「単純接触効果(ザイオンス効果)」と、処理しやすい情報を直感的に正しいと錯覚する「認知的容易性(Cognitive Ease)」が備わっています。画面に繰り返し登場するトップタレントは、視聴者の脳にとって「処理の負担が少ない安全な情報」としてインプットされます。そのため、無名タレントを起用した凝ったCMよりも、見慣れた上位タレントがストレートに商品名を発話する方が、購買行動への転換率が統計的に高くなりやすいのです。
さらに、日本企業に根強く存在する「損失回避バイアス(Loss Aversion)」も強く影響しています。「CMが大ヒットして売上が2倍になる可能性」よりも、「タレントのスキャンダルによって企業価値が毀損する恐怖」を避ける力が圧倒的に強く働きます。この防衛本能が働く限り、多少ギャラが高くともクリーンな実績を持つタレントへの集中は止まりません。
CM起用に適している企業・慎重になるべき企業の判断基準
企業のマーケティング戦略において、ランキング常連のトップタレントを起用すべきか否かは、商材の性質と目的によって明確に分かれます。
【トップタレント起用が向いているケース】
通信、保険、日用品、メガバンクなど、製品ごとの機能差が生活者に伝わりにくく、「企業の信頼性そのもの」が購買決定打となるマスマーケット商材。短期間で全世代に安心感を植え付けたい場合に最も高い費用対効果を発揮します。
【起用を慎重に検討すべきケース】
特定のカルチャーに特化したD2Cブランドや、新進気鋭のITスタートアップ。生活者に「また大手と同じようなタレントを使って無難にまとめている」と受け取られ、ブランド本来の先鋭性や尖ったアイデンティティが埋没してしまうリスクがあります。この場合は、ニッチ領域で熱狂的なファンを持つマイクロインフルエンサーや、これから世に出ていく新世代の表現者を抜擢する方が、ブランド価値を高める結果につながります。