薬物治療を拒む患者の多くが口にするのが「副作用への恐怖」だ。しかし、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に蓄積された膨大な安全性データが示す通り、現代の主要な降圧薬は極めて高い安全域を確保している。カルシウム拮抗薬による顔のほてりや下肢の浮腫、ARBによる軽度のめまいなどは存在するが、投与量の調整や薬剤の変更でコントロール可能なものが大半を占める。
真に恐れるべきは、副作用そのものよりも「自己判断による突然の服薬中断」である。自覚症状がないからと勝手に薬を止めると、血圧が以前より急激に跳ね上がる「リバウンド現象」を引き起こすリスクが高い。脆くなった脳の微小血管に突如として高圧の水流が送り込まれれば、結果は火を見るより明らかだ。
脳出血、くも膜下出血、大動脈解離。救急搬送される患者の中には、「調子が良かったので先週から薬を飲んでいなかった」と語る人が後を絶たない。自覚症状の無さこそが高血圧の最も凶悪な罠であり、サイレントキラーと呼ばれる所以である。