この事件が日本の事件・社会問題において決定的な転換点となった最大の理由は、鮮明に記録された被害車両のドライブレコーダー映像だった。被害者が命の危険を感じながら捉えた映像には、高速道路上で執拗に車間距離を詰め、前に割り込んで急ブレーキをかける嫌がらせの様子が克明に刻まれていた。
白の高級SUVから降りてきた男が、被害者の窓越しに何度も殴打を繰り返す。その横で、ガラケーをかざして撮影を続ける女性。目撃した誰もが「なぜ止めないのか」という強い憤りを抱いた。従来の交通トラブルでは双方の言い分が食い違い、警察の立件が難航するケースも少なくなかったが、デジタルデータの客観的証拠が言い逃れを不可能なものにした。
ドライブレコーダーの普及率は事件を境に一気に跳ね上がった。カー用品店では売り切れが相次ぎ、「自衛のための防犯設備」としての認知が定着する。ひとつの映像データが、日本の自動車交通社会における安全意識を根底から変えた瞬間でもあった。