シリーズ中、世界中のファンを最も絶望の底に突き落としたのが、シーズン3の最終話で描かれたマシュー・クローリーの非業の事故死でした。待望の第一子が誕生し、メアリーと至上の幸福を分かち合った直後、車を運転中に命を落とすという唐突な幕切れは、視聴者に巨大な心理的トラウマを残しました。
当時、インターネット上では「制作陣との不仲」「共演者とのトラブル」「法外なギャラ闘争の末の解雇」といった憶測が飛び交いましたが、英国メディアの綿密な追跡取材および本人の手記・公式インタビューによって明かされた実態は、まったく異なるものでした。
真相の核心にあったのは、「英国のテレビ業界における伝統的な3年契約ルール」と、若手実力派俳優としての純粋なキャリア戦略です。
英国のドラマ制作では、アメリカの長期拘束契約とは異なり、当初は「3シーズン(3年間)」を単位として契約を結ぶ慣行が定着しています。マシュー役を演じたダン・スティーヴンスは、ブロードウェイの舞台出演や映画界への本格進出など、俳優としての新たな挑戦を強く望んでいました。当時の英国『Telegraph』紙などのインタビューにおいて、スティーヴンス本人は次のように心境を明かしています。
「この役を演じられたことは一生の誇りだが、一人の役者として安全圏に留まり続けることに強い危機感があった。非常に過酷な決断だったが、次のステージへ踏み出すためには今契約を満了させるしかなかった」
脚本・製作総指揮を務めるジュリアン・フェロウズは、マシューが旅に出て遠距離生活を送る設定や、別居といった穏便なプロットも模索しました。しかし、あれほど深くメアリーと愛し合い、邸宅の共同経営者となった高潔な男が「生きているのにダウントンや愛妻を放置する」という設定は、キャラクターの一貫性を著しく破壊してしまいます。熟考を重ねた結果、メアリーの人生に新たなドラマ的起伏を生み出し、キャラクターの尊厳を守る唯一の解決策として「完全なる死による退場」が選ばれました。
同様に、シーズン3第5話で子癇症(しかんしょう)により急逝した三女シビル役のジェシカ・ブラウン・フィンドレイも、当初から「この役は3年間限定で全力を尽くし、その後は映画や舞台のオーディションに挑む」と公言しての円満な契約満了でした。シーズン3終了後に姿を消した侍女オブライエン役のシボーン・フィネランも、新たな役柄への挑戦を理由に自ら降板を選択しています。
つまり、相次ぐ主要キャストの離脱は現場の不和などではなく、俳優たちの飽くなき表現者精神と、英国ドラマ界の構造的システムが合致した結果生じた、極めて必然的なプロセスだったのです。