なぜ、聴力にも知的な理解力にも問題がないのに、一歳半で言葉が出ない現象が起きるのでしょうか。ここには、真面目で献身的な親ほど陥りやすい一般に知られていない盲点とネットの誤解が潜んでいます。
まず是正すべき最大の誤解は、「スマホやテレビの動画を見せすぎたから言葉が遅れた」「親の語りかけが足りないから喋らない」という自己責任論です。確かに一日中、双方向のやり取りがないまま受動的に動画を見せ続ける環境は推奨されませんが、通常の生活を送っている家庭において、親の努力不足だけで発語がゼロになることは医学的に考えにくいとされています。
むしろ、現場の言語聴覚士や発達支援の専門家が指摘する意外な盲点は、「親が優秀すぎて、子どもが言葉を発する必要がないほど快適な環境が作られている(過剰な先回り)」という逆説的な構造です。
たとえば、子どもが喉を渇かせてマグカップの方をチラッと見た瞬間に、「お茶が飲みたいのね、はいどうぞ」と差し出す。靴箱の前に立っただけで、「お散歩に行きたいんだね」と靴を履かせてあげる。このような「阿吽(あうん)の呼吸」による先回り育児が行き届いている家庭では、子どもにとって「わざわざ苦労して舌や唇を動かし、言葉という高度なツールを使わなくても、すべての要求が100%満たされる」という状況が生まれます。結果として、受容言語(理解)は十分に育っているにもかかわらず、表出言語(発語)へのモチベーションが発動しないまま1歳半を迎えるケースが少なくないのです。
また、もう一つの盲点として「大人の早口・長文によるインプット過多」が挙げられます。言葉を引き出そうと焦るあまり、「ほら、あれは赤い消防車だよ!サイレンがウーカンカンって鳴ってるね、かっこいい消防車って言ってごらん!」と矢継ぎ早に話しかけてしまうと、1歳半の子どもの脳は音の情報を処理しきれず、どの部分を単語として切り取って真似すればよいのか分からなくなってしまいます。