沿岸工学において波の威力を減衰させるために設計された消波ブロックは、波浪エネルギーを分散・吸収する目的で、あえて隙間(空隙)ができるように複雑に組み上げられています。しかし、この波を打ち消す優れた構造こそが、人間にとっては「一度落ちたら自力脱出不可能」な罠へと変貌します。
外海から押し寄せる大波がブロックの隙間に侵入すると、狭小な空間内で急激な水圧変化と強力な渦流が発生します。これに引き波のエネルギーが合わさることで、水面下に向かって強烈な下向きの吸引力(ダウンカレント)が生まれます。人間がこの水流に巻き込まれると、まるで掃除機のようにテトラポッド海中空洞の奥深くへと引きずり込まれてしまいます。
さらに恐ろしいのは、ブロック表面の物理的環境です。海面付近のコンクリートには濡れた海藻やフジツボ、カキ殻がびっしりと付着しており、極めて滑りやすい上に刃物のように鋭利です。水中に没した状態で這い上がろうとしても手足の引っ掛かりがなく、波に揉まれるたびに皮膚や筋肉が切り裂かれ、体力を急激に奪われていきます。