『大鏡』の語り手である大宅繁樹と夏山繁樹の対話を通じて描かれるのは、2人の人物像の鮮烈な対比です。伊周は当代一流の学者肌であり、漢詩や和歌の才能に秀でた貴公子でした。容姿端麗で華やかな存在感を放っていたものの、父の庇護のもとで挫折を知らずに育ったため、極限のプレッシャー下で脆さを露呈してしまいます。
対する道長は、幼少期から権謀術数渦巻く宮廷で揉まれ、父・兼家の冷徹な政治手腕を間近で吸収してきました。自分の未来を躊躇なく賭けのテーブルに乗せられる豪胆さと勝負強さは、同時代人の中でも群を抜いていました。
勝負の結末を見た道隆が、顔色を変えて息子の伊周に「射るな、やめよ」と制止した場面は、中関白家の限界を象徴しています。父の介入によって辛うじて体面を保とうとした伊周と、涼しい顔で弓を置いた道長。居並ぶ公卿たちの目には、どちらが真の権力者にふさわしい器であるかが残酷なまでに焼き付けられたのです。