中村吉右衛門版『鬼平犯科帳』の最大の推進力となったのが、平蔵を取り巻く「密偵」と「同心」たちを演じた名優陣の存在です。平蔵の手足となって危険な裏稼業に身を投じる密偵たち、そして平蔵の背中を追う若手・ベテラン同心たちの関係性は、現代の組織論やリーダーシップ論としても極めて示唆に富んでいます。
なかでも、密偵・おし込みの引き込み役であったおまさ(梶芽衣子)の存在感は際立っていました。幼少期から平蔵に淡い慕情を抱き続け、命を賭して平蔵のために働くおまさの凛とした美しさと哀愁は、梶芽衣子の代名詞とも言える名演となりました。平蔵とおまさの間に漂う、言葉には出さない絶対的な信頼関係とほのかな情念は、多くの名エピソードの核となっています。
また、かつて平蔵が「本所の銕(てつ)」と呼ばれ無頼の生活を送っていた青年時代を知る相模の彦十(三代目江戸家猫八/後年・長門裕之)は、平蔵が唯一素の表情を見せられる特別な存在でした。猫八の持つ飄々とした下町情緒と温かみは、重厚なドラマの中に絶妙な安らぎをもたらしました。
さらに、凄腕の元大盗人である小房の粂八(蟹江敬三)や大滝の五郎蔵(綿引勝彦)、密偵として悲劇的な最期を遂げた伊三次(三浦浩一)など、過去に暗い影を背負った男たちが平蔵の器量の大きさに惚れ込み、誇りを持って命を捧げていく姿は、視聴者の涙を誘いました。
一方で、平蔵を支える火付盗賊改方の同心陣も極めて個性的でした。食いしん坊でお調子者ながらどこか憎めない「うさぎ」こと木村忠吾(尾美としのり)、冷静沈着な筆頭同心・佐嶋忠介(高橋悦史)、実直な酒井祐助(篠田三郎/勝野洋)、そして平蔵を温かく支える正妻・久栄(多岐川裕美)。彼ら全員が血の通った人間として描かれていたからこそ、物語に重層的な厚みが生まれたのです。