インターネット上のコミュニティでは時折、「代々木第一体育館は音がこもる」「反響が激しくて歌詞が聴き取れない」というネガティブな噂が囁かれます。しかし、国立代々木競技場第一体育館の音響の噂の真相を舞台技術の視点から検証すると、過去のイメージが一人歩きしている実態が明らかになります。
確かに、元来は屋内水泳競技場およびバスケットボール会場として設計された体育館建築であるため、コンクリート打ち放しの壁面や曲面天井による固有のフラッターエコー(鳴き竜現象)が発生しやすい物理的特性を抱えていました。しかし、2019年から2020年にかけて実施された大規模な改修工事の経緯と現代の音響テクノロジーの進化により、この弱点は劇的に改善されています。
改修では、世界的な名建築としての意匠を維持しながら、天井裏の吸音材補強や耐震吊り天井の刷新が徹底して行われました。加えて、現代のコンサートツアーで使用される最新鋭の「デジタル指向性制御ラインアレイスピーカー」は、不要な反射面への音の拡散を最小限に抑え、ピンポイントで各客席ブロックへ均一な音圧を届ける設計が施されています。2026年最新の音響環境においては、サウンドエンジニアの適切なチューニングが施された公演であれば、アリーナのみならずスタンド上段に至るまでクリアで抜けの良い中高音と引き締まった低音を堪能できます。
この比類なき空間美を支えるのが、国立代々木競技場第一体育館の建築を手掛けた世界的巨匠・丹下健三の構造美学です。2本の主柱から張り渡された巨大なワイヤーケーブルで屋根全体を吊り下げる「吊り屋根構造」は、当時世界最大級のスパンを誇り、内部に一切の柱を不要とする大空間を実現しました。スポーツとエンターテインメントの融合を半世紀以上も前に予見していたかのような丹下の革新的デザインは、国の重要文化財にも指定され、今なお世界中の建築ファンを魅了し続けています。
なお、公称される代々木第一体育館のキャパシティは、固定スタンド席約9,000席に加え、可動席やアリーナパイプ椅子席を配置することで最大約1万2,800〜1万3,000人を収容可能です。ドームのような広大すぎる無機質さを感じさせず、武道館(約1万人規模)よりも演出の自由度が高いという絶妙なスケール感こそが、アーティストとファンの双方がこの会場に強い愛着を抱く決定的な要因となっています。