椎名もたさんの訃報が駆け巡る中で、最もリスナーの胸を締め付けたのが、亡くなったまさにその日である2015年7月23日の午後にニコニコ動画およびYouTubeへ投稿された新曲「赤ペンおねがいします」の存在でした。
この楽曲は、初音ミクを用いた軽快ながらもどこか物悲しいエレクトロ・ポップ調のトラックであり、投稿者コメント欄には以下の言葉が添えられていました。
「大人になってもすてきなひとになれなかったら、おとなのひとに赤ペンおねがいしたいです」
この一文と歌詞のメッセージは、彼が遺した最後の創作物として、後から多くの考察を呼ぶことになります。楽曲の中では、学校教育や社会生活における「正しさ」の押し付けに対する違和感、テストの答案用紙のように自分の人生を誰かに採点・添削してほしいという、未熟な自己と向き合う痛切な渇望が描かれています。
当時の特番インタビューや過去の手記を振り返ると、彼は14歳という若さでデビューして以来、急速にデジタル空間での名声を獲得する一方で、生身の人間関係や社会的な「大人」への移行期において深刻なジレンマを抱えていたことが窺えます。「赤ペンで直してほしい」というフレーズは、自暴自棄の叫びというよりも、「どうすれば正しく生きられるのか」を周囲の世界へ問いかけた、あまりにも純粋な対話への希求だったと捉えるのが自然です。