日本のスーパーや寿司店に並ぶブリやハマチの多くは養殖ものだが、その生産システムには驚くべき秘密がある。実はマダイやトラフグなどとは異なり、ブリ養殖の約9割以上は人工孵化ではなく、海から獲ってきた天然のもじゃこを育て上げる「畜養型養殖」によって成り立っている。
この養殖用種苗(しゅびょう)を確保するための漁が「モジャコ漁(モジャコ採捕)」である。漁期は毎年4月中旬から6月上旬のわずか1〜2ヶ月間に集中し、主たる産地は黒潮の恩恵を真っ先に受ける鹿児島県(阿久根、野間池、内之浦など)、宮崎県、長崎県、高知県などの西日本太平洋・東シナ海沿岸である。
モジャコ漁の現場は、熟練の操業技術が求められる過酷な舞台だ。漁業者は小型船を走らせ、双眼鏡で広大な海面に浮かぶ流れ藻を探し出す。藻を発見すると、魚群を驚かせないよう慎重に船を寄せ、特殊な巻き網やタモ網で海藻ごと包み込むようにして稚魚を一気にすくい上げる。採捕されたもじゃこは、船内の活魚タンクで細心の注意を払って生かされ、港の生け簀へと搬入される。
現場の水産関係者や市場データによると、もじゃこの取引価格は資源量や気象条件によって激しく変動する。近年の取引価格は、稚魚1尾あたりおよそ250円〜450円前後で推移している。燃油価格の高騰や資材コストの上昇に加え、海流の蛇行による来遊数の増減がダイレクトに種苗価格を左右する。
買い取られたもじゃこは、専用の活魚運搬船によって愛媛県宇和海や三重県、鹿児島県などの主要養殖産地へと輸送される。養殖場に到着したもじゃこは、徹底した水質・給餌管理のもとで配合飼料(EP飼料)や生餌を与えられ、1年半から2年をかけて体長70cm以上、体重4kg〜5kgを超える立派なブリへと育て上げられ、全国の市場へと出荷されていく。