俵屋宗達が手掛けた京都・建仁寺所蔵の国宝『風神雷神図屏風』(二曲一双)を詳細に観察すると、二神の視線ベクトルが決定的な不一致を起こしている事実が浮かび上がります。向かって右隻の白い肌を持つ雷神は口をへの字に結び、斜め下方の中央付近を鋭く睨みつけています。一方、左隻の緑色の風神は、口を開けて哄笑しながら、さらに下方の手前側を見下ろしています。
神話画や対決図における西洋絵画の定石であれば、両者が対峙して視線を火花散らす構図こそが自然です。しかし、宗達はあえて視線を外しました。これについて、近年の美術史研究や空間分析では「鑑賞者の立ち位置を巻き込む三次元的な空間設計」という見解が定着しています。二神の視線の交点は、屏風の平面上ではなく、この屏風を畳の上で見上げる人間の頭上、すなわち鑑賞者のいる地上へと注がれています。巨大な金箔の余白はただの空白ではなく、雷鳴が轟き暴風が吹き荒れる「無限の天空」であり、部屋の前に座った瞬間、鑑賞者は突如として天変地異の直下に立たされる仕掛けとなっているのです。
さらに注目すべきは、大胆極まる「フレームアウト(画面の断ち切り)」です。雷神の右足や連鼓、風神の風袋や足先が、屏風の外枠によって断ち切られています。四角い画面の中に怪物を収めるのではなく、画面の外側にある広大な異世界から、神々が猛スピードで飛び込んできた一瞬を切り取る――。この動的なトリミングこそが、宗達が絵画史に残した最大の革命でした。