国会周辺の記者会見や憲法審査会の現場、そしてSNS上の言論空間を観察すると、この条文に対する温度感は極めて特異な広がりを見せています。
法案や改憲案が審議される局面において、X(旧Twitter)などのネット空間では「#憲法97条の削除に反対します」といったハッシュタグが定期的にトレンド入りを果たしてきました。知恵袋や大手掲示板では「97条が消えると基本的人権そのものがなくなるのか」「独裁国家への道が開かれるのではないか」といった、切迫したトーンの投稿が数多く寄せられています。国民にとって、条文の難解さゆえに「最高法規から人権の文字が消える」という視覚的インパクトが、強い恐怖心や生理的反発として受容されている実態が浮き彫りになっています。
一方、国会論戦の現場ではよりテクニカルな応酬が繰り広げられてきました。憲法審査会の議事録を紐解くと、立憲民主党や共産党などの野党議員は「自民党草案は天賦人権論(人間は生まれながらにして自由かつ平等であるという思想)を否定する意図があるのではないか」と度々追及しています。これに対し、改憲派の議員は「第11条に人権規定がある以上、人権が消滅するなどという言説は悪質なデマである」と反駁し、議論はしばしば平行線をたどってきました。
公式会見の場で垣間見える起草関係者の表情には、法理論的な整理を優先したつもりが「人権剥奪のシンボル」として一人歩きしてしまったことに対する苛立ちと計算違いの色が隠せません。しかし、後述する草案全体の価値観の転換を踏まえれば、反対派の懸念を一概に「誤解」と片付けることもまた困難です。