初めて山内うどんを訪れる旅行者が最も戸惑うのが、入店時の注文ルールです。一般的な飲食チェーンのように席について待つスタイルではなく、讃岐の伝統的なセルフ形式が色濃く残っています。
暖簾をくぐって店内に進むと、まず厨房の麺打ち場・茹で釜の前に立ちます。ここで注文を聞かれますが、伝えるべきは「麺の温度 × 出汁の温度」と「サイズ(小・大・特大)」の2点のみです。
山内うどんにおける注文の符丁は極めてシンプルです。
- ひやあつ(冷たい麺 + 温かい出汁):初心者に最も推奨される一番人気の看板メニュー。
- あつあつ(温かい麺 + 温かい出汁):冬場や、薪釜の柔らかな小麦の香りを存分に楽しみたい方向け。
- ひやひや(冷たい麺 + 冷たい出汁):麺の締まりとコシを極限まで感じたい真夏の定番。
- あつひや(温かい麺 + 冷たい出汁):知る人ぞ知る通好みの変化球。
うどんを受け取ったら、すぐ脇のサイドメニュー台へ進みます。ここで絶対に外せないのが「藤原屋のゲソ天」です。香川県観音寺市に拠点を置く天ぷらの名工「藤原屋」から毎朝届くこの天ぷらは、山内うどんの象徴的存在。衣にはほんのりと甘みがあり、大ぶりで弾力のあるイカのゲソがぎっしりと詰まっています。
このゲソ天の味わい方には流派があります。最初の2口はそのままかじり、カリッとした衣の食感とイカ本来の旨味を噛み締めます。そして後半、あえて丼のいりこ出汁の中へと沈めるのです。衣に熱い出汁が染み込むと同時に、天ぷらの良質な油とイカのエキスが出汁全体に溶け出し、淡麗だったいりこスープが一気に重厚なコクへと変化します。この「味覚のグラデーション」こそが、山内うどんにおける至高の食体験です。