漫画の超常能力になぞらえられる現象ですが、動物行動学の視点から紐解くと極めて合理的な生体プロセスの結果であることが分かります。愛猫が突然暴れる理由の核心にあるのが、「猫真空行動(Vacuum Activity)」と呼ばれる本能の解放現象です。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した動物行動学者コンラート・ローレンツが提唱したこの概念は、「刺激となる対象(獲物など)が存在しないにもかかわらず、本能的な固定行動パターンが自発的に発現してしまう現象」を指します。室内飼育のイエネコは、空腹に脅かされることもなく安全なテリトリーで暮らしていますが、肉食獣としての狩猟衝動そのものは遺伝子に深く刻み込まれたままです。
日中に使われず体内に蓄積され続けた莫大な運動エネルギーは、脳内の「行動衝動の閾値(いきち)」を極限まで押し下げます。その結果、目に見えない微細なホコリの揺らめきや壁の微かな影、あるいは脳内の偶発的な神経発火が引き金となり、存在しない獲物を全力で追撃する「擬似ハンティング」が猛烈なダッシュとして炸裂するのです。