選挙に関わる人々が最も神経をすり減らすのが、日常的な「政治活動」と特定の選挙を狙った「選挙運動」の法的な線引きです。公職選挙法において、両者は明確に区別されています。
政治活動との違いを一言で言えば、「特定の選挙において、特定の候補者の当選を得させる、または得させないための直接・間接の目的があるかどうか」にあります。政策の普及や党勢拡大、政治的意見の表明は通年で自由に行える「政治活動」ですが、そこに「次の〇〇選挙で私に1票を」という要素が加わった瞬間から「選挙運動」とみなされます。
そして、選挙運動を行うことができるのは選挙運動期間と時間に完全に限定されています。期間は選挙の公示日(または告示日)に立候補の届出を完了した時点から、投票日の前日午後11時59分59秒までです。街頭演説や連呼行為(マイクでの名前連呼)を行える時間は午前8時から午後8時までと厳密に定められており、1分でもフライングすれば近隣住民からの通報やライバル陣営からの告発対象となります。
では、なぜ告示前に行う「事前運動」がこれほど厳しく禁じられているのでしょうか。事前運動の禁止理由には、主に以下の3つの公的根拠が存在します。
- 選挙費用の過大化防止:通年で無制限の選挙運動を認めると莫大な資金が必要となり、資金力のある富裕層や現職ばかりが有利になる不平等を防ぐため。
- 過密・過熱運動の弊害防止:年中選挙カーが走り回り、拡声器の騒音やビラ配りが横行することで、国民の平穏な日常生活が破壊されるのを防ぐため。
- 候補者間の実質的公平性の確保:スタートラインを同一に揃えることで、新人候補や無所属候補の政治参入機会を担保するため。
立候補予定者が告示前に掲示する街頭ポスターに、自身の名前ではなく政党名や政治団体の活動告知を前面に出したり、顔写真の横に弁士としての別人を並べるいわゆる「2連ポスター・3連ポスター」を作成するのは、この事前運動規制をクリアするための苦肉の策として定着した現場の知恵です。