豪徳寺を語る上で欠かせないのが、江戸時代初期に起きた劇的な邂逅だ。鷹狩りの帰途にあった彦根藩主・井伊直孝が寺の前を通りかかった際、門前で手招きをする白猫に誘われ境内へ足を踏み入れた。その直後、空がにわかに掻き乱れ、激しい雷雨が大地を叩きつけたという。落雷の危機を間一髪で逃れ、住職の温かいもてなしに深く感銘を受けた直孝は、寺を井伊家の菩提寺として庇護することを決意した。
この伝説こそが、今日親しまれる招き猫文化の起源とされている。曹洞宗の禅寺としての厳格な規律を保ちながらも、小さな命の導きを縁として受け入れた寛容さ。単なる偶然の雨宿りではなく、人と人、人と自然が結んだ奇跡的な巡り合わせが、名刹としての礎を築いた。