「このタレだけは、どんなに時代が変わっても変えられないんだよ」
厨房の奥で湯気を立ち上らせる大鍋を前に、店主は力強く語る。看板メニューである「もつ煮込み」は、毎日早朝4時から丁寧に行われる下処理から始まる。余分な脂をそぎ落とし、数種類の味噌と隠し味の地酒を加えて煮込むこと実に10時間。舌の上でトロリと解ける柔らかさと、後味に残る深みのあるコクは、機械化された工場生産では決して再現できない職人技の賜物だ。
器から立ち上る湯気とともに運ばれてくる一品は、一口目から強烈なインパクトを放つ。白米に乗せてかき込めば、米一粒一粒に旨味が絡みつき、箸を止めることができなくなる。長年通う70代の男性は「若い頃から仕事帰りにこの煮込みとビールで一杯やるのが生きがいだった。今では孫と一緒に来ているよ」と目を細める。