人間が睡眠を断たれた場合、時間の経過とともにどのような変化が起きるのでしょうか。厚生労働省の睡眠指針や各種医療機関の臨床知見、過去の学術的データをもとに、心身に現れる異常を時系列で整理しました。
徹夜を始めてからわずか24時間寝ない体の変化として、まず顕著に現れるのが集中力と反応速度の著しい低下です。米国労働安全衛生研究所(NIOSH)などの研究でも、起床から17〜19時間が経過した脳のパフォーマンスは「血中アルコール濃度0.05%」、24時間連続で起きている状態は「血中アルコール濃度0.10%(呼気中アルコール濃度約0.5mg/L)」に匹敵すると報告されています。この段階で感情の起伏が激しくなり、理性的な判断を司る前頭葉の機能不全が始まります。
断眠が48時間(2日間)に達すると、身体は深刻な防衛反応を示し始めます。数秒から数十秒の間、本人の意識とは無関係に脳の一部が睡眠状態に落ちる「マイクロスリープ(微小睡眠)」が頻発します。さらに、自律神経の乱れから血圧や血糖値のコントロールが効かなくなり、睡眠不足による吐き気や激しい偏頭痛、激しい悪寒といった身体的変調が噴出します。
そして72時間(3日間)〜1週間を超えると、人間の精神は臨界点を迎えます。視界の隅に虫が這うような感覚を覚えたり、存在しない話し声が聞こえたりする精神病様症状が発現します。なぜ寝てないのに幻覚を見るのかといえば、極度の断眠によって脳内の神経伝達物質ドーパミンが異常過剰放出し、夢を見ている覚醒状態(レム睡眠の侵入)と現実の知覚が脳内で混濁するためです。
睡眠研究史において最も有名なのが、1964年に米国の高校生ランディ・ガードナーが行った断眠実験のギネス記録(264時間12分=約11日間)です。実験中、彼は激しい幻覚や記憶喪失、言語障害を発症しました。この実験以降、ギネスワールドレコーズは「挑戦者の生命に重大な危険を及ぼす」として、断眠に関する世界記録の公認と新規挑戦の受け付けを完全に禁止しています。公式記録機関が停止措置を取るほど、長時間の断眠は人体にとって致命的な行為なのです。