鼻周囲のトラブルにおいて、皮膚科医や形成外科医が最も警戒するのが鼻の腫れ放置厳禁の理由に直結する解剖学的特異性です。眉間から両小鼻の端を結ぶ三角形のエリアは、医学界で古くから「危険三角(デンジャラス・トライアングル)」として知られています。
人体の通常の静脈には血液の逆流を防ぐ「静脈弁」が備わっていますが、顔面の眼角静脈や翼突筋静脈叢にはこの弁がほとんど存在しません。そのため、鼻の周囲で発生した細菌感染が深部に達すると、血液の流れが容易に逆流し、頭蓋底にある海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)へと病原体が直接送り込まれるルートが存在します。
もし面疔を放置して黄色ブドウ球菌が頭蓋内へ波及した場合、海綿静脈洞血栓症という致死率の高い脳血管感染症を引き起こすリスクがあります。38度を超える高熱、激しい頭痛、眼球の突出、複視(ものが二重に見える)といった全身症状を伴い、集中治療室での緊急治療を要する事態に発展しかねません。抗生物質が普及した現在では極めて稀なケースとはいえ、「鼻の先のおでき」を単なる肌荒れと侮ることは、生命に関わる感染経路を軽視することと同義です。