軟骨へのピアッシングは、かつてはアンダーグラウンドなボディモディフィケーションや、パンクロックの精神を体現する先鋭的な主張だった。2000年代初頭、矢沢あいの伝説的漫画『NANA』で描かれた登場人物たちの退廃的で美しい耳元に心を奪われ、安全ピンや市販のピアッサーを握りしめた記憶を持つ世代も少なくないだろう。あのカルチャーの衝撃から時を経て、いま軟骨ピアスは完全に大衆化を果たした。
現在、トレンドの発信地となっているのはTikTokやYouTubeだ。「ヘリックス開けてみた」「軟骨ピアスのダウンタイム記録」といったショート動画が何百万回も再生され、インフルエンサーの耳元を飾る幾何学的なメタルの輝きが、憧れのハードルを一気に引き下げている。ボディジュエリー業界もこれに呼応し、アレルギーフリーのチタンやゴールドを用いた洗練されたデザインを次々に投入した。しかし、手軽に入手できる環境が整った一方で、生身の肉体を改造しているという根源的な危機感は驚くほど希薄になっている。