波を描く技術の進化は、日本の版画史そのものと言っても過言ではない。東京国立博物館に所蔵される数々の名品を眺めると、絵師ごとにまったく異なる「波の表情」に息を呑む。
大胆なデフォルメとフラクタル構造を直感的に操った北斎に対し、歌川広重は抒情的な空気感と水面の揺らぎを巧みに描き出した。広重の描く波は、旅情を誘う潮騒や、どこか哀愁を帯びた水辺の日常と共にある。江戸の町人文化を彩った浮世絵は、ベロ藍(プルシアンブルー)の鮮烈な発色とともに、西洋の印象派画家に決定的な衝撃を与えた。水という形なきものを線とグラデーションだけで捉えきる造形力は、現代のグラフィックデザインの基準から見ても圧倒的にアヴァンギャルドだ。