柳楽優弥の役者人生において、「目」は常にキャリアの転換点を切り拓く最大の武器でした。2004年のカンヌ国際映画祭で世界に衝撃を与えた『誰も知らない』のオーディションにおいて、是枝裕和監督は部屋に入ってきた瞬間の彼を見て「目に殺された」と回顧しています。セリフを流暢に語る技術ではなく、ただ佇み、相手を見つめる瞳の強さだけで主役を射止めました。
その後、若き日の苦悩や休養期間を乗り越え、実力派として決定的な評価を確立した映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)では、言葉を一切発さずに暴力に身を投じる主人公を演じ切りました。瞬きを極限まで削ぎ落とし、獲物を狙う肉食獣のような目つきだけで観客を恐怖に陥れた演技は、数々の主演男優賞を総なめにしました。
ディズニープラスで世界配信され社会現象となったドラマ『ガンニバル』シリーズでは、この「目の演技」がさらに先鋭化しています。警察官としての正義感を宿しながらも、村の狂気に触れることで瞳の奥のストッパーが外れていく狂気へのグラデーションは、まさに圧巻です。瞳孔の開き具合やまぶたのわずかな引き攣りによって、キャラクターの内面崩壊を生々しく視覚化しました。
一方、TBS系ドラマ『ライオンの隠れ家』では一転して、自閉スペクトラム症の弟を優しく見守る兄・小森洸人役を熱演。これまでの鋭利な目つきを完全に封印し、柔らかく温もりを湛えた慈愛のまなざしを見せました。狂気から包容力まで、視線ひとつで作品の世界観そのものを支配できる振れ幅こそが、彼が現代最高峰の名優と称される所以です。