「商業施設のトイレの前で、どちらに入ればいいかわからず1分近く立ち往生した」「急いでいるのに抽象的すぎて判断がつかない」――。SNSやネット掲示板では、近年リニューアルされた商業施設や高級レストランのトイレサインに対する困惑の声が溢れています。
都内の大型複合商業施設や外資系ホテルを取材すると、建築美学を追求するあまり、壁面と同系色の金属プレートを採用したり、人物の輪郭を極限まで抽象化した幾何学模様のみを配置したりする事例が散見されます。視覚的なノイズを排除した結果、利用者が「男性用か女性用か」を瞬時に読み解けないという、サインデザイン本来の機能を損なう本末転倒な事態が生じているのです。
日本のトイレピクトグラムは、1964年の東京オリンピックを契機に、言語の壁を越えて案内を伝える目的で美術家の勝見勝氏やグラフィックデザイナーの渡辺道三郎氏らによって体系化されました。ズボンを穿いた男性(青)、スカートを穿いた女性(赤)という視認性に優れたデザインは、外国人来日客からも絶賛され、世界中に広まった歴史的傑作でした。しかし現代において、ジェンダー表現への配慮やミニマリズムの追求が進んだ結果、かえって現場のユーザービリティが損なわれるという新たな社会的課題が浮き彫りになっています。