いまや誰もが知るあの名フレーズ「チャリで来た」ですが、その誕生の裏には、中学生特有のエネルギーと切実な金欠事情が絡み合っていました。撮影されたのは2008年、場所は神奈川県横浜市・伊勢佐木町のゲームセンターです。写っているのは当時、藤沢市立中学校に通っていた中学1年生から2年生の仲良しグループ4人でした。
彼らが目指したのは、横浜スタジアムで開催されていた大人気グループのライブ会場(または野球関連イベント)でした。「どうしても現地に行って熱狂を肌で感じたい、限定グッズが欲しい」という熱意を抱いたものの、彼らの財布には電車代の往復運賃(片道数百円)を支払う余裕がありませんでした。そこで彼らが下した決断が、「自転車で横浜まで行く」という力技の強行突破だったのです。
出発地である神奈川県藤沢市の辻堂から、目的地の横浜スタジアムまでは片道およそ25kmから30km。アップダウンの激しい国道1号線を、本格的なロードバイクではなく、ごく普通の「ママチャリ」や通学用自転車でひたすら漕ぎ続けました。所要時間は片道3時間以上。真夏のような日差しの中、汗だくになりながらペダルを漕ぎ抜き、目的地にたどり着いた時の達成感は、中学生男子にとって生涯忘れられない大冒険そのものでした。
イベント会場の熱気を味わった後、彼らは「この偉業を形として残そう」と、帰り際に伊勢佐木町のゲームセンターに立ち寄り、1回400円のプリクラ機に身を滑り込ませました。文字を書く制限時間の中、メンバーの1人が画面に指を走らせた言葉こそが、あの「チャリで来た」だったのです。当時の手記や本人の回想によると、それはウケを狙ったものではなく、「電車を使わず、自力でここまで来たんだぞ」という純粋無垢な誇りの宣言でした。