採血が極めて優れた生体情報ツールであることは間違いありませんが、万能視することは極めて危険です。医学界で周知されている血液検査でわからない病気の代表例を把握しておくことは、受療行動における死角をなくすために欠かせません。
まず、消化管の粘膜表面にとどまる早期の胃がんや大腸がんです。がん細胞が血管網に深く浸潤していない粘膜内がんの段階では、腫瘍成分が血流中に流出しないため、血液検査の数値には何一つ反映されません。これらを発見するには、上部・下部消化管内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)による直接の視診と組織生検が絶対条件です。
次に、破裂するまで無症状で経過する未破裂脳動脈瘤や初期の脳梗塞などの脳血管疾患です。これらは血管の物理的な拡張や狭窄、奇形であるため、血液生化学検査で察知することは不可能です。発見には脳ドックによる頭部MRI/MRA検査が必須となります。
さらに、心臓弁膜症や不整脈といった心臓の構造的・電気的異常も通常の血液検査では判明しません(重度の心不全になればBNPやNT-proBNPという心筋負荷マーカーが上昇しますが、初期の不整脈や弁の逆流は心電図や心臓超音波検査でしか捉えられません)。加えて、アルツハイマー病をはじめとする初期の認知症や、うつ病・不安障害などの精神疾患も、一般的な血液検査単体で確定診断を下すことはできません。
「血液検査がオールAだったから自分は完全に健康体だ」という過信は、これら画像・生理機能検査でしか見つからない致死的疾患の見落としにつながる最大の盲点です。