ロック界のカリスマでありながら、極めて知的で緻密な歌詞を書く稲葉浩志のバックボーンを語る上で欠かせないのが、その学歴です。岡山県立津山高等学校を経て、国立の難関校である横浜国立大学教育学部中学校教員養成課程(数学)を卒業しています。
大学時代に数学の教員免許を取得しており、教育実習の現場では長髪を理由に校長から指導を受けそうになりながらも、実習をやり切ったという有名なエピソードがあります。当時の同級生や関係者の述懐によると、「物静かで礼儀正しい好青年でありながら、内に秘めた音楽への情熱は凄まじかった」と語られています。
数学専攻で培われた論理的思考力は、稲葉の作詞センスに色濃く反映されています。感情をただ叩きつけるのではなく、人間の弱さ、嫉妬、情熱、自己欺瞞を構造的に捉え、リズムとメロディに一分の狂いもなく言葉を乗せていく作業は、極めて高度な言語数学とも言えます。知性と野生の同居こそが、ボーカリスト・稲葉浩志の唯一無二の魅力です。