旅先として訪れる北海道と、住民票を移して365日暮らす北海道とでは、見えている風景が根本から異なります。「北海道移住はやめとけ」と経験者が口を揃える最大の要因は、観光気分のまま日常へ突入したときに生じる想定外の摩擦です。
本州の生活圏ではインフラが自動的に解決してくれる問題――たとえば道路の確保、室温の維持、通勤時の安全確保――が、北海道ではすべて個人の重労働や直接的な金銭負担としてのしかかります。秋が深まる10月下旬からゴールデンウィーク直前の5月上旬まで、およそ半年近くにわたって寒気と対峙し続ける日常は、温暖な地域で育った人間のバイオリズムを確実に削っていきます。
さらに見落とされがちなのが、冬の「日照時間の短さ」と「行動制限」がもたらすメンタルへの打撃です。吹雪の日は買い物はおろか玄関ドアを開けることすら困難になり、外部との接触が遮断されます。旅行で触れる一面の銀世界は美しいエンターテインメントですが、生活者にとっての雪は、毎朝睡眠時間を削って排除しなければ社会生活が破綻する「無償の肉体労働」そのものです。この冷酷な現実に直面した瞬間、憧れは容易に絶望へと反転します。