一方で、TICの普及に伴い、SNSや現場の一部で危険な誤解が蔓延していることも事実だ。最も典型的なのが「トラウマインフォームドケア 具体例とされる関わりは、結局のところ問題行動や犯罪的行為を甘やかす言い訳ではないか」という偏見である。
しかし、これは完全な誤謬だ。TICの真髄は「感情や背景の受容」と「行動の境界線(リミットセッティング)」を明確に区別することにある。暴力や器物破損、他者の安全を脅かす行為は断固として容認しない。ただし、「なぜそんな酷いことをするのか!」と人格を否定して処罰するのではなく、「あなたが恐怖や怒りを感じたことは理解できる。しかし、人を叩く行為は安全のために許可できない」と冷静に境界線を引き、代替となる安全な対処行動を一緒に探す。規律を放棄するのではなく、むしろ規律を安全に守らせるための土台を作るのがTICの真実だ。
もう一つの重大な盲点は、「職員全員がトラウマの専門治療者にならなければならない」という誤認である。現場スタッフが当事者に過去の虐待体験を詳しく聞き出そうとし、かえって激しいフラッシュバックを誘発させてしまう事故が後を絶たない。TICはトラウマ体験の掘り起こし(暴露療法)を一切求めていない。過去の詳細を一切知らなくても、「安全で、予測可能で、信頼できる現在の環境」を提供するだけで十分であり、これを取り違えると支援者自身が加害者になりかねない危険性を孕んでいる。