衣類のトラブルで最も深刻なのが「ドライコースで洗ったのに、高価なセーターがフェルトのようにカチカチに縮んでしまった」というケースです。この悲劇が起きる背景には、ドライクリーニングと水洗いの決定的な違いを把握していないという根本原因があります。
クリーニング専門店で行われるドライクリーニングは、水を一切使わず、石油系などの「有機溶剤」と呼ばれる特殊な液体を使って洗います。ウールやカシミヤなどの動物性繊維は、水に濡れると繊維の表面にあるウロコ状の組織(スケール)が開き、摩擦が加わることでウロコ同士がマジックテープのように絡み合って収縮します。これを「フェルト収縮」と呼びます。専門店のドライクリーニングでは水を使わないため、スケールが開くこと自体がなく、型崩れや縮みが発生しません。
対して、家庭用洗濯機のドライコースは「水」を使います。たとえどんなに優しい水流であっても、水に浸かっている時点で繊維のスケールは開いた無防備な状態です。ここに以下の要因が加わると、洗濯機ドライコースで服が縮む理由へと直結します。
第一に「普通の弱アルカリ性洗剤を使ってしまったこと」。アルカリ性はスケールをより大きく開かせる作用があります。第二に「洗濯ネットに入れずに洗った、あるいはサイズが大きすぎてネット内で衣類が激しく動いて擦れ合ったこと」。第三に「長時間の脱水による物理的圧力」です。ドライコースは魔法の縮み防止機能ではなく、「水濡れによるリスクを低減するための精密な運転」に過ぎないという事実を認識しておく必要があります。
なお、家電の操作パネルにはメーカーや年式によって異なる名称が印字されています。おしゃれ着コース・手洗いコースとの違いについて疑問を持つ方も多いですが、実質的な制御プログラム(弱水流・弱脱水・低摩擦)はほぼ同一です。かつて「ドライ」と表記されていたものが、ユーザーの誤解を防ぐために「おしゃれ着」「おうちクリーニング」「デリケート」といった直感的な表記へ移行しているのが近年の動向です。