デジタルカメラの普及とともに、インターネット上には「RAWで撮っておけば後から何とでもなる」「露出アンダーで撮りさえすれば万全」といった短絡的な言説が溢れるようになりました。しかし、これらは現場の物理現象を無視した危険な誤解です。
最大の誤解は、RAW現像とデータ復元に対する過信です。一部の現像ソフトには「ハイライト復元」という強力なスライダーが用意されており、白飛びしかけた領域をある程度落ち着かせることができます。しかし、これはRGBのうち一部のチャンネル(例えば緑や青)にかろうじて残っていた情報から、欠損した赤のデータを補間推測して擬似的に色を塗っているに過ぎません。3チャンネルすべてが飽和した純白の領域にスライダーを適用すると、不自然なマゼンタ被りや濁ったグレーの滲みが発生し、かえって破綻した画像を生み出す原因となります。「RAW現像は魔法の消しゴムではない」という現実を認識しなければなりません。
もう一つの落とし穴が「白飛びを恐れるあまりの過度なアンダー撮影」です。白飛びを防ぎたい一心で常に-2EVや-3EVといった極端に暗い露出で撮影すると、後からシャドウを持ち上げた際に深刻なカラーノイズやバンディング(縞模様)が発生し、暗部のダイナミックレンジを完全に破壊してしまいます。光の粒子から得られるS/N比(信号対雑音比)は光量が多いほど良好になるため、理想的な露出制御は「白飛びするギリギリ手前まで光を取り込む」ことにあります。これを光学の世界ではETTR(Expose To The Right:ヒストグラムの山を右側に寄せる露出技法)と呼び、アンダーに逃げるだけの撮影とは明確に一線を画します。