教科書を開けば「円管の臨界レイノルズ数は2300」と綺麗に記載されている。しかし、化学プラントや半導体工場の超純水配管、地域熱供給の熱水パイプラインを手掛ける現場のプラント配管エンジニアに取材すると、一様に苦笑いを浮かべる。
「大学の講義では$Re=2300$が絶対の境界線のように教わりますが、実際のプラント現場で2300まで層流を保てるケースなどほぼ皆無です。配管の継ぎ目のわずかな段差、バルブの開閉ショック、溶接ビードの盛り上がり、さらにはポンプが発する微小な脈動振動だけで、レイノルズ数が1500〜1800程度であっても局所的に乱流化が始まってしまいます」(大手エンジニアリング企業・配管設計担当エンジニアの証言)
現場を最も悩ませるのが、前述した管内流れの圧力損失(プレッシャードロップ)の急増だ。層流であれば配管の摩擦損失は流速に正比例するため、流量を2倍にしても圧力損失は2倍で済む。しかし、ひとたび乱流域に突入すると、流速の約1.75乗から2乗に比例して圧力損失が跳ね上がる。流量を2倍にするだけで、管内抵抗は4倍近くに達する計算だ。
これを見誤ると、導入した送液ポンプの揚程(送り出す力)が不足し、所定の流量が届かないという致命的な設計ミスを招く。加えて、過大な乱流による配管内壁のエロージョン・コロージョン(乱流摩耗腐食)が引き起こされ、想定の半分以下の期間で配管にピンホール(微小孔)が開く事故も後を絶たない。ネット上の技術掲示板や知恵袋でも「設計流量を上げた瞬間に配管が異音を発し始め、ポンプのブレーカーが落ちた」という若手エンジニアの悲鳴が定期的に投稿されるが、その真相の多くはこの層流・乱流の臨界領域の見誤りにある。