現代の日本人が最も疑問に抱く点の一つが、「小学校で習う『島』があるのに、なぜわざわざ画数の多い『嶋』が存在し続けているのか」という点です。この謎を解く鍵は、昭和中期に行われた戦後の国語施策と戸籍の歴史にあります。
歴史的な事実として、本来の正字(伝統的な正しい字体)は「嶋」であり、私たちが日常的に使っている「島」は、画数を減らすために作られた略字(俗字)でした。しかし、第二次世界大戦後の1946年(昭和21年)、政府が制定した「当用漢字表」において、国民の識字率向上や印刷技術の効率化を目的に、より簡素な「島」が標準字体として採用されたのです。
この改革により、「嶋」は公教育や新聞・公用文の現場から姿を消し、常用漢字の枠外へと追いやられることになりました。ところが、長年にわたり先祖代々の苗字として「嶋」の字を受け継いできた国民からは、戸籍や命名において伝統的な文字を使い続けたいという強い要望が寄せられました。これを受け、法務省は1976年(昭和51年)の戸籍法施行規則改正に伴い、「嶋」を人名用漢字として追加指定しました。これにより、現代でも子どもの命名や戸籍上の表記として合法的に選択できるようになっています。