長野県内には数多くの蕎麦処が存在しますが、旧美麻村の蕎麦が特別な存在感を放つ最大の理由は、その特異な栽培環境にあります。標高750メートルから900メートルに位置する新行高原一帯は、夏でも朝晩の気温が急激に下がる高冷地です。この激しい寒暖差と高原を包む朝霧によって蕎麦の実がしっかりと引き締まり、澱粉質と甘みが凝縮された上質な玄蕎麦が育ちます。
歴史を紐解くと、痩せた山間地であった美麻村では古くから米の代わりに蕎麦や麻(大麻)の栽培が生活を支えてきました。日常の主食として培われた「挽きたて・打ちたて・茹でたて」の三たてを徹底する文化が、現在の名店へと受け継がれています。北アルプスの雪解け水がもたらす軟水で一気に締められた手打ち麺は、噛むほどに芳醇な穀物の香りが口いっぱいに広がるのが特徴です。