広大な敷地に踏み込むと、静謐な空気の中に木造建築の巨躯が聳え立つ。圧巻なのは、1912年(明治45年)に建築された「旧網走刑務所 舎房及び廊下」だ。中央の看守所を中心に5本の舎房が放射状に伸びる「五翼放射状平屋舎房」は、木造の行刑建築としては世界最古の規模を誇る。
廊下に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした冷気が足元から吹き抜ける。暖房設備など存在しなかった明治・大正期、厳しい冬の寒さの中で受刑者たちがどのように過ごしたのか。廊下の端まで見渡せる構造は効率的な監視を可能にした反面、そこに置かれた個々の生き死にを際立たせる。板張りの床を踏みしめる音だけが響く空間には、当時の張り詰めた空気感が今も生々しく残っている。