「僕のこと」の音域について、音楽的分析を行うと、この楽曲が一般的なポップスの枠組みを大きく超えたダイナミクスで構築されている事実が浮かび上がります。
楽曲全体の音域幅は最低音mid1C(C3)から裏声最高音hiD(D5)までを網羅しており、音程の開きは実に2オクターブと2音(全26半音)に達します。標準的な成人男性の平均的な実用音域(およそ1オクターブ半/mid1C〜mid2G程度)を丸ごと包み込んだ上で、上下両端にさらに枠を広げたような規格外の配置です。
各パートごとの詳細な音程配置を追うと、歌唱者を追い詰める構造が浮き彫りになります。
冒頭のAメロ「僕と君とでは」の歌い出しなどで登場する最低音mid1C(C3)は、男性にとっては落ち着いた低音域ですが、女性にとってはチェストボイスの鳴りを限界まで落とさなければ拾えない低域です。ここから曲は緩やかに上昇し、Bメロを経てサビへと突入します。
サビで待ち構えているのが、本楽曲の代表的なインパクトでもある地声最高音hiB(B4)です。「ああ なんて素敵な日だ」のロングトーンをはじめ、hiA(A4)やhiBといった男性のいわゆる「換声点(Passaggio:地声から裏声への移行ゾーン)」を完全に越えた高音域が、強烈なフォルテシモで繰り返し叩き込まれます。さらに、ラスサビのドラマチックなフェイクやファルセットパートで突入するのが裏声最高音hiD(D5)です。ただ高い声を一瞬引っ掛けるのではなく、豊かな響きを保ったまま空間に響かせる技術が求められます。