木村拓哉が息を吹き込んだ牧正一という人物は、軍需工場の経営者であり、息子の眞人に対して深い愛情を注ぎながらも、戦時下においてどこか無神経なほどの生命力を撒き散らす複雑な父親だ。木工の箱に入った高級タバコを軽快に煽り、車不足の時代に自家用車を乗り回して校門へと乗り付ける。その破天荒な振る舞いは、一歩間違えれば視聴者に嫌悪感を与えかねない危うさを孕んでいた。
しかし、木村の演技はその危うさを「人間の愛すべき生々しさ」へと昇華させた。声のトーンをわずかに低く保ちつつ、自信と欲望に満ちあふれた発声を徹底。それでいて息子を案じる場面では、不器用ながらも温かい父親の揺らぎを滑らかに表現している。従来の声優的な記号的演技とは一線を画すナチュラルで立体的な発声法が、スクリーンの絵に圧倒的な説得力を与えていたことは疑いようがない。