煮魚の成否を分ける最大の分水嶺は、火にかける前の「下処理(霜降り)」にあります。「鮮度が良ければそのまま煮ても大丈夫だろう」と省略してしまうケースが見受けられますが、これは仕上がりを台無しにする最大の落とし穴です。
銀鱈の表面には、酸化した皮脂や血液、体表のぬめりが付着しています。これらに含まれるトリメチルアミンなどの揮発性塩基が、煮汁全体に嫌な生臭さを移してしまう原因となります。湯通し(霜降り)を行う理由は、単なる汚れ落としにとどまりません。熱によって表面のタンパク質を瞬時に熱変性させて固め、内部の旨味と脂の流出を食い止める防壁を作るという極めて合理的な物理現象を利用しています。
下処理の具体的なステップは次の通りです。
ステップ1:振り塩をして水分を抜く
切り身の両面に軽く塩を振り、室温で10〜15分ほど置きます。浸透圧の作用で表面に余分な水分(臭みを含んだドリップ)が浮き出てくるため、キッチンペーパーで優しく拭き取ります。
ステップ2:80〜85℃の湯にくぐらせる
沸騰した湯に差し水を少し加え、80〜85℃程度に調整した湯の中に切り身を網や穴あきお玉に乗せて5〜10秒ほどサッとくぐらせます。表面が白っぽくなったらすぐに引き上げます。完全な沸騰湯(100℃)に入れると皮が激しく破れてしまうため、温度コントロールが肝心です。
ステップ3:冷水に取り、優しく洗う
氷水または冷水を張ったボウルに静かに移し、指の腹を使って残ったウロコ、血合い、固まったぬめりを優しく撫でるように洗い流します。その後、ペーパータオルでしっかりと水気を拭き取れば、下処理は完璧です。