クリストファー・ノーラン監督がワーナー・ブラザースとともに送り出した一連のDCコミックス映像化作品は、それまでのエンターテインメントの枠組を根本から塗り替えた。アメコミ特有のコミカルさを排し、重厚な心理ドラマへと昇華させた手法は、ハリウッドの映画産業全体に巨大な地殻変動を引き起こした。
それまでの商業映画が描く悪は、倒されるべき記号的な存在に過ぎなかった。しかしワーナー・ブラザースとノーランが提示したのは、社会システムそのものが抱える機能不全と、それに直面した人間の精神的脆弱さだった。現実世界の暗部を映し出す鏡として敵を捉え直したこの革新は、映画表現の可能性を一段高い次元へと引き上げたのである。