国民的な知名度を誇るマスコットの姿をここまで激変させる決断は、企業ブランディングにおいて極めて異例かつリスクの高い試みでした。なぜヤンマーホールディングスは、親しみある伝統的な造形を脱ぎ捨てる決断を下したのでしょうか。そのヤン坊マー坊リニューアル経緯の根底には、創業100年を超える名門企業が挑む「グローバル変革」の強い危機感と決意がありました。
かつてのヤンマーは、国内において「トラクターやコンバインの農機具メーカー」という牧歌的なイメージで広く定着していました。しかし実態として同社は、産業用ディーゼルエンジンをはじめ、水素燃料電池、マリンプレジャーボート、最先端のスマート農業システムを展開する世界水準のテクノロジー企業へと進化しています。国内市場の人口減少を見据え、海外売上比率を急速に拡大させるなかで、「日本ローカルのほのぼのした農機具屋」というパブリックイメージを脱却することが急務だったのです。
さらに注目すべきは、このデザイン刷新がトップダウンの一方的な押し付けではなく、世界中のファンを巻き込んだヤン坊マー坊キャラクター投票によって決定された点です。ヤンマーはリニューアルにあたり、以下の3つのデザイン案を提示し、グローバル一般投票を実施しました。
総投票数約7万6,000票のうち、約半数にあたる支持を集めて選ばれたのが現在の「B案」でした。多くのファン自身が「単なる懐かしさに安住せず、新しい時代へと果敢に飛び出すヤン坊マー坊を見たい」と望んだ結果が、このスタイリッシュな9代目誕生を決定づけたのです。