熊本県立美術館本館の空間に一歩足を踏み入れると、外観の抑制された佇まいからは想像できないほど、伸びやかで開放的な吹き抜けロビーが広がります。設計を手掛けたのは、ル・コルビュジエの愛弟子であり、日本の近代建築を牽引した巨匠・前川國男です。
熊本城跡という極めて厳格な景観保護が求められる特別史跡内に建設するにあたり、前川は「城の石垣や緑のスカイラインを決して邪魔してはならない」という信念のもと、建物の高さを極力低く抑え、展示空間の主要部を半地下・地下へと埋め込む手法を採用しました。外壁を彩る深みのある打ち込みタイル(有釉タイル)は、熊本の豊かな大地と城の土塁を想起させ、半世紀を経た現代でも色あせない重厚感を放っています。
建築ファンの間で特に高く評価されているのが、自然光の巧みなコントロールです。ロビーの大開口部からは二の丸公園の緑が絵画のように切り取られ、展示室へと進むにつれて静謐な暗がりへと誘われる光のグラデーションは、訪れる者の鑑賞体験を心理的にも高める効果をもたらしています。日本建築学会賞を受賞したのも納得の、まさに「建物そのものが巨大な美術品」と呼ぶにふさわしい空間です。