三上博史の俳優としての出発点は、極めて前衛的かつ文学的な世界にありました。高校時代に劇作家・詩人である寺山修司に見出され、1979年のフランス映画『草迷宮』で主演デビューを飾った経験は、その後の彼のキャリアにおける絶対的な原点となっています。アンダーグラウンド演劇の持つ狂気と耽美性を十代で叩き込まれたことが、後に訪れるポップカルチャー全盛期でも独自の異彩を放つ土台となりました。
1980年代後半、フジテレビを中心とするトレンディドラマブームが到来すると、『君の瞳をタイホする!』(1988年)や『愛しあってるかい!』(1989年)で一転して時代の寵児となります。しかし、単なる爽やか路線にとどまらず、『この世の果て』(1994年)のような人間の暗部を描いた重厚な作品でも圧巻の演技を披露しました。さらに1996年には岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』で、架空都市「円都(イェン・タウン)」に生きる主人公・フェイホンを多言語を操りながら演じきり、映画史に残る傑作を生み出しました。
特に2004年に日本初演を果たしたブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』での主演は、演劇界に計り知れない衝撃を与えました。愛と自らの半身を求めて歌い叫ぶドラァグクイーンのロックシンガー役を、過激な衣装と全身全霊のボーカルで演じきり、トレンディ俳優の残像を完全に吹き飛ばしました。この舞台の成功が、彼の演劇人としての地位を不動のものにしました。